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神戸地方裁判所 昭和33年(行)13号 判決

原告 山本市郎

被告 兵庫県教育委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二九年四月一日原告を洲本市立青雲中学校教諭より同市立上灘中学校教諭に転補した処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、原告は洲本市立青雲中学校に教諭として勤務していたところ、訴外洲本市教育委員会(以下洲本委員会と略称する)は昭和二九年四月一日原告を同市立上灘中学校教諭に転補した。(以下単に本件処分と云う)しかし右処分は次の理由により無効である。

一、原告は数年来兵庫県教職員組合洲本支部の役員として職員団体の正当な活動に従事し殊に原告が洲本中学分会同支部人事対策委員として昭和二五年三月現教育課長萩野実が中川原小学校より洲本第一小学校長に転任するにつき支部組合員の反対を代表して当時の教育課長河瀬鶴夫と交渉し転任反対の闘争を展開したこと同二六年青雲中学校に籍を置き市教育課に勤務していた方城勉が二回目の特別進級をしたが、これは同人が教諭実践が少いのに拘らず異例の措置としてなされたものとして支部執行部と協力の上右河瀬に対しこれが撤回を申入れ拒否されるや直接白川市長に面接し右撤回をかちとり又同年教員広瀬、近藤、森崎に対し行われた退職勧告が強要と認められたので右河瀬に善処を求め交渉したが決裂したため同人退職のため不信任案提出の運動を展開し翌二七年三月に至り同人と交渉し退職勧告撤回のため闘つたが以上の原告の組合活動は河瀬教育長と正面から対立し同人の政策の障害となつたのみならず、同二八、九年同人の婦人教師又は高令者、恩給年限者に対する退職政策につき原告が婦人教師と面接しこれに勇気と団結心を吹込んだため洲本委員会は原告の右活動を嫌悪して本件処分をなしたもので右は地方公務員法(以下地公法という)第五六条の不利益取扱の禁止に違反する不利益処分で無効である。

二、本件処分は洲本委員会が昭和二九年二月下旬原告の妻洲本市立第三小学校教諭山本きよ子に対する強制的退職勧告を同女が拒否したのに対する報復として人事権を濫用してなされたものであることは同年四月一日右河瀬が右きよ子に対し退職するのであれば至急教育委員会を開いて審議するがやめなければ既定の方針通り原告の転補を発令する旨明言していることにより明白でかゝる処分は地公法第二七条第一項のすべて職員の分限及び懲戒については公正でなければならない、との規定に違反し無効である。

三、本件処分は原告に地公法第二八条所定の事由がないのに拘らず本人の意思に反してなされた同法第二七条第二項の降任処分であつて無効である。

四、本件処分は洲本委員会が委員会招集について適法な告示並に決議をせず且教育長河瀬鶴夫の独断をもつてなされたものであるから「洲本市教育委員会の権限の一部を教育長に委任する規則」第二条に違反し無効である。

よつて右処分の無効確認を求めると陳述し被告の本案前の主張に対し本件処分は洲本委員会が行つたものであるが昭和三一年一〇月一日地方教育行政の組織及び運営に関する法律第三七条同法附則第二一条に基き本訴の目的たる権利関係は被告によつて承継されたものである。被告は本件においては同法附則第二一条の適用はなく、その権利関係は被告において承継さるべきものではないと云うけれども、右附則第二一条に云う「旧委員会が旧法その他の法令の規定に基いて行つた処分で現に効力を有する」とは、本件について云えば原告を青雲中学校から上灘中学校教論に転補した処分で、洲本委員会が右処分を実体法上有効であるとして処置している状態並びに原告においても右処分を実体法上違法であるとして争つている状態があれば足りるのである。従つて本件訴は適法である。原告が被告主張の如き経過を経てさきに当裁判所に本件処分の取消を求める訴訟を提起し右訴訟がいわゆる休止満了の結果取下とみなされるに至つたが、およそ行政処分につき無効原因が存在する場合には該処分の無効確認訴訟を提起し得ること、そしてこの場合行政事件訴訟特例法第二条の適用がないことは判例学説上確立されているところである。行政処分の取消を求める訴が取下となつても、右処分に明白かつ重大な瑕疵が内在する限りこれを原因として新に訴の提起をなし得ることは当然であると附述した。

被告訴訟代理人は、本案前の答弁として、「本訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、本訴は洲本委員会のした原告の転補処分の無効確認を求めるものであるから地方教育行政の組織及び運営に関する法律附則第二一条に規定する場合に該当しない。右法律第三七条によれば昭和三一年一〇月一日同法施行後は県費負担の教職員の任命権者は都道府県教育委員会となつたが、同法附則第一八条によれば同法施行前に当時の任命権者である市町村教育委員会が行つた不利益処分に対する説明書の交付、審査の請求、審査及び審査の結果執るべき措置は右法律施行後であつても従前の例により市町村の教育委員会と人事委員会又は公平委員会との関係で処理されることとなつている。しかして原告は本訴において本件処分の無効確認を求めるものというも、実質においては本件処分の是正を求めることに帰するから、同法第一八条を適用又は類推適用すべきである。従つて本訴は洲本委員会を相手とすべきであるに拘らず兵庫県教育委員会を被告としたのは当事者を誤つた訴である。又原告は昭和二九年四月一日洲本市公平委員会に対し不利益処分審査請求の申立をしたが同委員会は昭和三〇年二月一四日これを棄却し原告は同年六月一七日同委員会に対し再審査を請求したが同年七月二八日右請求は棄却され、原告は更に昭和三一年一月二六日訴外洲本委員会を被告として本件処分の取消を求める行政訴訟を提起したが右事件は同三二年一〇月一二日休止期間満了により取下とみなされ右処分については出訴期間の経過により再び出訴し得ないに拘らずことさら右処分を無効であるとして提起した本訴は違法であるから却下さるべきであると陳述し、本案の答弁として「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因事実について原告の日に訴外洲本委員会により原告主張の如き転補処分がなされたことは認める。しかし右処分は教育行政上の必要に基きなされたものであつて適法かつ正当なものである。即ち、

一、本件処分は「昭和二八年度末洲本市立小学校、中学教教職員異動方針並に実施細目」に準拠して発令されたものであり適法かつ正当である。

二、本件処分の決定に際しては四名の候補者より健康、俸給、家庭事情、経験年数等諸般の事情を総合検討した結果原告を最適任者として教育委員会全員一致の決議により発令したものである。

三、原告は上灘中学校へ転勤させられたため家庭的並に経済的には多少の不便利はあると思われるけれども、これは他のいかなる者にとつてもあり得ることであつて程度の問題であるのみならず、処分者は原告の将来に対し期待をもつて首席教諭として栄進の転補を考えて決定したものである。上灘中学は不便な所にあり自ら好んで転勤しようとする希望者はいないので長年月の勤務を要求するものではなく平等に不便不利を分ち合う意味においてできるだけ短期間内に交換的異動を行う考えであるから暫く勤務してもらうほかないと考えたものである。

四、上灘中学には従来同校より転出希望の教員があつて校長もそれを認めていたのと、かつ地元の要望もあるので有資格者と無資格者との交流により同校職員組織の充実強化を実現し、定額の点からも他校との均等強化の方向え一歩前進せしめるとの方針に基いて決定したものである。

五、教職員の人事行政については本人の事前の同意を得た上で発令することが望ましいが全部の教職員の希望を充足することは到底不可能なことであるから全般的に見て利不利を公平に分担するために必ずしも事前に了解を得た上で異動を行つていない。

六、本件処分は報復人事ではない。訴外山本きよ子に対する退職勧告は洲本市立小・中学校における定額が県の内示額を超過しているので県の要望に応ずるため夫婦共かせぎ教員であつて双方共恩給年限に達しているものはいずれか一方に退職してもらいたいという前年度の方針に基いている。これは退職の相談であつて強要ではない。原告の場合夫婦の俸給を合算すれば洲本市内小・中学校教員中最高であり生活上何らの苦痛はない。原告の妻に、昭和二九年二月下旬、所属校長を通じて退職か管外転出か、いずれかを決定してもらうように伝え、そして同年三月二七日頃原告の妻に退職の場合の降格採用等のことを相談するために教育委員会に来てくれるよう伝えたが、原告から面会を拒絶して来た。一方本件処分は昭和二九年三月二四日洲本市教育委員会協議会において内定し同月三〇日同委員会において正式に決定されたものである。しかるところ、教育長が翌三一日上県の際、退職金の大巾増額を知り、その事実を伝えるべきであると考え、翌四月一日に原告の妻を呼び出して、その旨を伝えたが、同女からはいぜんとして退職しない旨の返答があつた。この様に原告の妻の退職拒否と本件処分とは何等関係はないものである。なお従来原告と教育長河瀬鶴夫とが感情的に対立していたり或は原告がその妻である訴外山本きよ子に対する退職勧告について不快の念を抱いていたとしても教育委員会という法的機関が法に処分したものであるから報復人事という如きことはこの組織の構成上あり得ない。

六、要するに本件処分についてはこれを無効ならしめる原因が存在しないから適法な取消がない限り完全にその効力を有し原告の本訴請求は失当であると陳述した。

(各証拠省略)

理由

先づ被告の本案前の主張について判断するに、原告が地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和三一年法律第一六二号、以下単に法と略称する)に云う県費負担教職員であることは、原被告双方の主張に徴して認め得るところ、法第三七条によれば県費負担教職員の任命権は法施行により都道府県教育委員会に属することになつたから、昭和三一年一〇月一日以降における原告の任命権者は被告である。

しかして、本件処分は法施行前に洲本委員会がその権限に基いてなしたものであるが(この事実は後述するごとく当事者に争がない)前記のように洲本委員会が権限を失うと共に、本件処分の法律関係は法附則第二一条によつて新任命権者である被告に承継されたものと解すべきである。被告が指摘する法附則第一八条は、本件処分が同条の不利益処分に該当するかどうかは措き、法施行前に県費負担教職員に対してなされた不利益処分に関する説明書の交付、審査の請求、審査及び審査の結果とるべき措置に限つて、市町村教育委員会と人事委員会又は公平委員会との間で処理すべき権限を与えたに止り、訴訟における被告適格を特に市町村教育委員会に附与した規定であると解すべきではない。又法附則第一七条も右の場合と同様趣旨であつて、本件訴の被告を洲本委員会であるとする根拠にすることはできない。それ故兵庫県教育委員会を被告として提起した本件訴は適法と云うべく、この点に関する被告の主張は理由がない。

次に被告は、原告が同三一年一月二六日洲本委員会を被告として転補処分の取消を求める行政訴訟を提起し、右訴訟は昭和三二年一〇月一二日に休止満了により取下とみなされ右処分については出訴期間の経過により再び出訴し得ないに拘らずことさら右処分を無効であるとして提起した本訴は違法であると主張し、原告がさきに被告主張の如き訴訟を提起したがその後いわゆる休止満了により取下とみなされるに至つたことは当事者間に争いのないところであるが、行政処分につき重大かつ明白な違法が存在する限り該処分につきさきに取消訴訟を提起したか否かを問わず該処分の無効確認訴訟を提起し得べくしかもこの場合出訴期間の制限に服しないものと解されるからこの点に関する被告の主張も理由がない。よつて以下本案の争点について判断する。

原告が洲本市立青雲中学校に教諭として勤務していたところ洲本委員会が昭和二九年四月一日原告を同市立上灘中学校教諭に転補したことは当事者間に争いがない。原告は右処分は第一に地公法第五六条に違反し無効であると主張する。証人中野豊、同山口幸男、同武田清市、同岩岡昇、同山本きよ子、同河瀬鶴夫(一、二回)の各証言及び原告本人尋問の結果を綜合すると、原告の昭和二四年頃より本件処分を受けるに至るまでの組合における地位は兵庫県教職員組合洲本支部、洲浜分会、青雲中学分会等の書記長、人事対策委員長、同委員、分会長等の役員をつとめ、しかもその組合活動が顕著であつたこと、例えば昭和二五年現洲本委員会教育課長萩野実が洲本市中川原小学校々長から洲本第一小学校々長に転任する際の反対斗争、昭和二六年中当時青雲中学校に籍を置き、市教育課に勤務していた方城勉の二回目の特別昇級発令につき、組合側からこれの撤回を求めその結果特別昇級を阻止し得た事件、同年から二七年にかけ行われた広瀬、近藤、森崎、上村、田村各教員に対する河瀬教育課長(昭和二七年一一月教育長となる)の退職勧告、同二八年、二九年に亘る河瀬教育長の婦人教師又は高令者、恩給年限者に退職を求める方針に反対して活動する等、原告の組合活動は主として人事対策に関連し、河瀬教育長と直接交渉を持つ機会が多かつたことが認められる。そして交渉の成行によつては、双方に悪感情を抱くに至つたことも時としてあり得たであろうことを推認するに難くない。又成立に争のない甲第一号証、原告本人尋問の結果により成立を認め得る甲第二、三号証、証人富本保、同岩岡昇、同山本きよ子、同河瀬鶴夫(一、二回)の各証言、原告本人尋問の結果を綜合すると、上灘中学校は近時町村合併によつて洲本市に編入されたもので、洲本市内とは云つても交通の便悪く、宿舎、学校その他教育設備が不備な上、職員組織も充実していない所謂僻地の学校であつて、従来同校に希望して勤務する者は少く、大半は上灘或は由良町在住の者や新規採用者があてられていたこと、洲本委員会が本件処分をなすに際し、原告はもとより青雲中学校々長及び転補先の上灘中学校々長のいずれにも、原告の具体的な異動案を示して意見を徴することなく、行つたものであること、原告自身は本件処分によつて別居生活から生ずる生活費の増加、その他僻地に勤務することから事実上不利益を甘受せねばならぬこと等はいずれも認めることが出来る。しかしながら前顕河瀬鶴夫の証言に徴するときは原告の組合活動の顕著であつた事が本件処分の事由となつたとは認め難いし、又上灘中学の過去における職員組織が上灘又は由良町在住者及び新規採用者によつてその大半を占めていたのは、教育行政を司る者にとつては好しからざることとは思いながらも、社会的経済的な悪条件に阻まれて、やむを得ずかく推移して来たが、洲本委員会においては上灘中学の設備の改善はもとより、職員組織の充実をはかるべく考慮していたことが推察されるのであつて、上灘の実情が前記のようなものであるからと云つて、これをもつて直ちに原告の主張の如き意図をもつて本件処分をなしたと認める徴憑とすることはできない。更に前記のような本件処分に伴う事実上の不利益は、原告のみが受けなければならないものではなく、上灘施設或は給与等の面で改善をみない限り、避けられぬ不利益であつてこれを教員の何人かが甘受せねばならぬものと思われる。しかして原告自身の実情は証人山本きよ子の証言及び原告本人尋問の結果によれば、経済的、家庭的な面に或程度の不利益な点はあつても、通常の生活にいちぢるしい障害を来たしているとは認められない。従つてこの事実と前記の原告の組合活動の顕著さ、上灘の実情とを結びつけて、本件処分が原告が主張する如き違法性をもつものと認める資料とすることが出来ず、却つて成立に争いのない乙第五号証の一乃至三、同第六号証、同第九号証の一、証人萩野実、河瀬鶴夫(第一回)、同林巍の各証言により真正に成立したことが認められる乙第七、八号証同第九号証の二に右各証言を綜合すれば本件処分は洲本委員会が「昭和二八年度末小学校中学校教職員異動方針並に実施細目」に基いて公正に行つたものであることが認められるから此の点についての原告の右主張は採用できない。

第二に原告は本件処分は洲本委員会の原告の妻である洲本市立洲本第三小学校教諭山本きよ子に対する強制的退職勧告を同女が拒否したことに対する報復として人事権を濫用してなされたものであると主張する証人岩岡昇、同山本きよ子の各証言、原告本人尋問の結果を綜合すると、原告の妻山本きよ子に対する退職勧告は、昭和二九年二月二七日洲本市立第三小学校長を通じてなされたのをはじめとし、次いで同年二月二七日教育長から文書で呼出しがあり、これに対して本人に代つて原告から出頭を拒否したところ、更に同年四月一日に教育長から文書で重ねて呼出があつたので同日午前中呼出しに応じて出頭したところ、教育長から直接退職の意思の有無を確められたが、これに対し同人は退職の意思のないことを明らかにしたこと、その際教育長が山本きよ子が退職するならば委員会で相談する余地があるが、さもなければ既定方針どおり午後発令する旨の発言をなしたこと、一方原告に対する本件処分が同日午後なされたことは、いずれも認めることができる。原告は前記のような妻きよ子に対する退職勧告の経緯と本件処分とを関連づけ報復人事で人事権の濫用であると云うのであるが、前顕乙第五号証の二、三、第七、八号証、第九号証の一、二及び証人河瀬鶴夫(一、二回)、同萩野実、同林巍の各証言を綜合すると、原告の妻に対する退職勧告は、洲本委員会の方針に基き先年来からひきつづき行われて来たものであつて、年度末異動に含まれた本件処分と時を同じくして行われたからと云つて、特別の意図があつてこのこととみるべきではなく、又本件処分が昭和二九年三月二四日に開かれた洲本市教育委員会協議会(秘密会)で内定を見、同月三〇日の洲本委員会の定例会で正式決定され、同年四月一日発令の運びとなつていた事実に鑑るときは、本件処分は山本きよ子が退職勧告に応ずると否とにかゝわらずそれとは無関係に進められたものと認められる。前記河瀬教育長の発言内容も、前記認定の事実や前顕乙第八号証、第九号証の一、二、証人河瀬鶴夫(一、二回)、同林巍の各証言に徴するときは、右発言があるからと云つて本件処分に報復的意図があつたと認めるべきではなく、その他原告の提出援用する証拠によつても、本件処分が報復人事で人事権の濫用であるとの事実を認めるに足りない。

第三に原告は本件処分は原告に地方公務員法第二八条所定の事由がないのにかゝわらず本人の意思に反してなされた降任処分であるから無効であると主張するが、同法条に謂う降任とは、現在の職級又は等級の官職からそれより下位の職級又は等級の官職に任命する場合をいうものと解すべきであるから本件処分の如く僻地における勤務による事実上の不利益をもたらすに過ぎず、現在置かれている職級又は等級の官職からそれより下位の職級又は等級の官職に任命される場合に当らないものは前記法条にいう降任に該当しないと解すべきであるからその余の点について判断を加えるまでもなく原告の右主張は理由がないことになる。

第四に原告は本件処分は洲本委員会の招集についての適法な告示並びに決議もなされず単に教育長河瀬鶴夫の独断をもつてなされたものに過ぎないから「洲本市教育委員会の権限の一部を教育長に委任する規則」第二条に違反し無効である、と主張するから按ずるに成立に争いのない乙第九号証の一、証人河瀬鶴夫の証言(第一回)により真正に成立したことが認められる乙第九号証の二に右証人並に証人萩野実の各証言を綜合すれば洲本委員会は昭和二八年三月三〇日委員五名全員出席の上正規の委員会を開き昭和二八年度教職員異動案に基いて原告の本件転補を決議したことが認められ右認定を左右する証拠はない。原告は右委員会は適法な招集の告示がなされていないと主張し、証人河瀬鶴夫の証言(第一回)によれば同委員会を開く場合はその三日前に告示することを要することが認められるが右委員会においては委員全員出席の上決議されたものであるからかりに適法な招集の告示がなされていないとするも、これをもつて直ちに右委員会の決議が無効であるとは言えないから右告示の有無並びに適否を論ずるまでもなく原告の右主張は理由がない。

すると原告が本件処分が無効である理由として掲げた右各主張はいずれも理由がないことに帰するから本件処分の無効確認を求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 乾久治 白井守夫 正木宏)

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